医療界の不思議

東京大学大学院工学系研究科の飯塚悦功教授は工業分野の品質管理の専門家として高名な先生で、最近は医療界でも「患者適応型パス」の開発を中心になって進められています。今回は、飯塚先生の講演の中から、「医療界の不思議」という興味深い話をご紹介したいと思います。

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品質管理の専門家から見た医療界の不思議

1.質概念の希薄さ
飯塚先生は品質管理を実践するにあたり「顧客志向」あるいは「目的志向」という考え方をとても大事にされています。すなわち、「提供する側のほうが製品・サービスに関する遥かに優れた知識を持っているのはあたりまえでも、製品やサービスの利用者にその良さをわかってもらえなければ意味が無く、知識レベルが低く無責任であっても受け手側の論理のほうがすべてにおいて優先される」という考え方です。このようなものづくりの哲学を踏まえて品質改善に取組んできたからこそ、日本の工業製品は世界最高の品質水準を達成することができたのでしょう。
これに対して、「医療提供者側は医療サービスを受ける側の価値観や願っていることを本当にわかっているのだろうか?」という疑問を投げかけられています。
医師や大学教授や技術者など専門性の高い仕事をしている人ほど「自分がどう思われているのかあまり意識せず、自分の価値観だけで思考して行動して自己満足に陥る傾向にある」として注意を促しています。

2.個人的能力への依存
工業製品の場合、1個の優れた製品を作るためには天才が1人いれば良いのですが、大量の製品を安定して製造するためには個人の能力を組織化する必要があります。これに対して、「医療の現場では、少数の(多くても1割程度の)優秀な人たちが個人的な努力で懸命になって良くしようとする世界であって、プロセスで質を作りこむとか、組織全体で役割分担して運営していくことの重要性の認識が工業分野に比べて極端に低い」ということを指摘されています。

3.普遍化技術の軽視
臨床技術についても、「これは助からないと思われたものを奇跡的に英雄的な腕によって治すことばかりが重要視され、多くの人たちがかかわっている病気で診断・治療技術が確立しているものを普通に治してしまうための方法論が軽視されている」とのことです。当たり前のことを馬鹿にしないでちゃんとやることがあまり認められないことに大きな疑問を感じられているようです。

4.改善・改革へのインセンティブが働かない
最後に、通常の製品やサービスであれば、良いものであれば受け入れられて経済的に潤う仕組みがあるのですが、「医療界には正しいことや良いことをやっている人がほめられるような仕組みがなく、適正なインセンティブが働いていないように思う」と感じられたようです。日本の社会保障制度の根本的な問題点として、医療制度や医療経済のシステム設計を見直す必要性も指摘されています。

(参考文献:東京都病院協会会報 第107号)

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私も医療以外のビジネス経験が長いため、飯塚先生の話には大いに共感でき、同じような疑問を感じるからこそ「患者満足度」をテーマとして医療機関経営をサポートしようと考えています。

医師や病院関係者から「医療の質」についての話をうかがうと、たいていは臨床指標に基づく成績や医療安全対策に関する成果ばかりが強調されます。もちろんそれらは「医療の質の根拠」として欠かせない重要な指標に間違いありませんが、それだけで果たして質の高い医療を提供していると言えるのでしょうか?