入院期間と患者満足度

同じ人でも、自分の置かれた状態によって価値感や優先順位は変化します。このことを、私たちの調査データを使って具体的に説明します。入院患者の場合、短期入院の方も長期入院の方もいます。それぞれ患者さんと病院とが関わる時間が相当違うのですが、それでも患者満足度に影響を及ぼす要因が同じなのかという疑問が出てきます。そこで、私たちは入院期間によって患者満足度に及ぼす要因の違いを回帰分析により検討してみました。

患者満足度に及ぼす要因としては、「医師・看護師の技能」、「患者とのコミュニケーション」、「患者への対応」、「苦痛からの解放」、「治療の結果」、「病院に対する評判」を使用しています。

この分析では、入院期間に関わらず「治療の結果」と「病院に対する評判」は、患者満足度に影響を及ぼすことが分かりました。一方で、それ以外の要因については入院期間によって以下のように影響の強さが異なることも観測されました。

<患者満足度に影響を及ぼす要因>

  • 入院期間1週間以内: 「医師・看護師の技能」、「患者とのコミュニケーション」、「患者への対応」
  • 入院期間1週間~1ヶ月: 「患者とのコミュニケーション」、「患者への対応」
  • 入院期間1ヶ月以上: 「苦痛からの解放」

同じような分析を行っている別の文献(注)もありますので、簡単に触れておきたいと思います。この研究でも当社の分析と同様に、退院時アンケートの回答者を、グループ1(入院期間1週間以内)、グループ2(1週間から1ヶ月)、グループ3(1ヶ月以上)の3グループに分け、グループごとに患者満足度
に影響を及ぼす要因を回帰分析により検討しています。

3グループに共通して患者満足度に重要な影響を与えた要因は、「不安からの解放」、「医師の臨床能力」、「家族の病院評価」、「他の患者の病院評価」となっています。一方、各グループに固有な要因も以下のように存在しています。

  • グループ1: 「看護技能」
  • グループ2: 「看護技能」、「身体的回復」、「患者の意向の尊重」
  • グループ3: 「苦痛からの解放」、「患者の意向の尊重」

(注)Junya Tokunaga and Yuichi Imanaka, Influence of length of stay on
patient satisfaction with hospital care in Japan, International Journal
for Quality in Health Care, vol.14 pp.493-503, (Oxford Journals, 2002)

患者満足度という主観的な指標を扱う以上、アンケートの設問が異なる両者を単純に比較することはできません。しかし、いずれの結果からも、入院期間に関わらず「病院に対する評判」が重要であることと、入院期間が長くなるにつれて患者満足度に重要な影響を及ぼす要因が、「医療技能」→「コミュニケーション・対応」→「苦痛の除去」へと移っていく傾向を読み取ることができます。逆に言えば、患者さんが病院に求めているニーズが入院期間によって異なるため、病院が優先的に配慮すべき課題も患者さんによって異なってくるわけです。

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患者満足度という数字は、さまざまな患者さんの声を集約した、あくまでも平均的な数字を意味することがほとんどです。それらは提供された医療の質を評価するための「結果指標」として重要であることは間違いありません。

しかし、結果を一喜一憂することよりももっと大切なことがあります。それは、得られた情報をもとにしてその要因を分析し、対策を立案して、改善のために活用することです。

前回もお話ししたように、年齢や性別などの分類だけでは患者満足度に及ぼす要因に大きな違いは見られません。それよりも、患者満足度を向上させるためのヒントをイメージすることができ、結果を改善するためのアクションにつなげられるような、意味のある分類(セグメント)を探すことが重要です。