職員満足度と患者満足度

「患者満足度を高めるには、職員満足度を高める必要がある」という話を耳にしたことがある方も多いと思います。

  1. 病院の職員が自分の仕事や処遇に満足していなければ、
  2. 患者さまの立場に立った医療やサービスを提供できず、
  3. 結果的に患者満足度を高めることはできない。

このようなシナリオは一見すると筋が通っているように思いますが、はたして本当にそんなに単純に考えても良いものでしょうか?

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当社では、患者満足度調査とともに職員満足度調査も行っています。今回はある病院のケースを通して、職員満足度と患者満足度について考えたいと思います。場面はある民間の急性期病院。病床は約400床で9つの病棟があります。この病院の病棟別の職員満足度と入院患者満足度を比較したグラフをご覧ください。

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もし職員満足度と患者満足度との間に明らかな関係があれば、各病棟のデータは原点から右上に伸びる赤の点線上に並んでいても良いはずなのですが、実際には各病棟のデータはバラバラで、統計的にも職員満足度と患者満足度との間にまったく相関は認められませんでした。

たとえば、B病棟のように、患者満足度も職員満足度も低ければ説明は簡単です。しかし実際には、A病棟では職員満足度は最低なのに患者満足度は最も高く、逆にC病棟では職員満足度は非常に高いのですが、患者満足度はそれほど高くないという結果が出ています。いったい何が起こっているのでしょうか?

この病院だけでなく他の病院でも同様な傾向が表れるのですが、まだはっきりした原因はわかりません。ただ、いろいろな病院の調査結果を分析したり、病院の経営者や現場スタッフの声を聞いていると、以下のような仮説を立てることができるように思います。

  1. 入院患者の満足度は、傷病の治療結果と、医師や看護師など自分が関わった医療者との信頼関係によって、ほとんど決定づけられる。
  2. 医師や看護師をはじめとする医療者は「プロとしての職業意識」や「医療者としての倫理観」が非常に強い集団なので、職場に対する満足度で患者への対応に差をつけたり、手を抜いたりするような行動はとらない。
  3. 働く組織としての問題や欠陥が大きくても、医療スタッフの個々人の「本能的ながんばり」でカバーしてしまうため、結果的に患者満足度には影響を与えない。

実際に、自分は疲れ果ててフラフラになりながらも、患者への医療に手を抜かず努力している現場の医師や看護師を私は大勢見てきました。おそらく病院
についても同じことが言え、病院の経営状態や職場環境が悪くても、患者から評価されている病院は世の中にたくさんあるでしょう。

さらには、国全体の医療システムでも同じようなことが起きているような気がしてなりません。日本の医療職員の満足度を諸外国と客観的に比較したことはありませんが、私の感触ではおそらく相当に低いと思います。

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東大病院の永井前院長から印象的なお話をうかがいました。「WHOが世界最高だと言っている日本の医療システムは、若くて責任感の強い現場の医師や看護師の自己犠牲のもとに成り立っている非常に脆弱なシステムである」と。私もまったくの同感です。現場のスタッフが「安心して全力で医療や患者対応に打ち込める職場環境づくり」は重要であるし、職員も「いざというときに自分を守ってくれる」組織としての役割を期待していますが、実際にはどうでしょうか?

上記のような「現場への過度の依存状態」が長く続くわけもなく、優秀な医師や看護師は燃え尽きて現場を離れるか、燃え尽きる前に別の現場を目指すでしょう。職員満足度を高めることは、中長期的に優秀な人材を確保し、安定した組織(システム)の経営と質の高い医療を継続するための必要条件であって、組織の経営者はそこにこそ最大の責任があると思います。