患者の本音

ある地方都市に、以前から病院長のトップダウンによって『患者満足度』を重視した病院運営に取組んでいるとても素晴らしい民間病院があります。

この病院では以前から、すべての退院患者さんに対するアンケート調査を継続的に実施し、専門の委員会で調査結果を分析して業務改善に活用するとともに、病院内の掲示板やホームページでも調査結果を公表しています。さらには、調査結果を毎年100ページにものぼる冊子にまとめて地域の開業医にも配布し、地域連携における信頼構築にも役立てています。結果的に、職員の間にも患者満足度に配慮する意識が浸透し、地域での評判も非常に高く、時間もコストもかけて患者満足度を追求してきた経営努力は賞賛に値すると思います。

しかし、病院長は不安を感じていました。「この結果に満足しても良いのだろうか?何かがおかしい。」

この病院がこれまで行ってきた調査方法は、退院が決まった患者さんにアンケートへの記入を依頼し、退院時に病院職員が回収するという多くの病院で用いられている方法です。調査結果によると、患者さんの満足度はほぼ100%に近く、ほとんど問題がない水準だと判断できます。すでに病院内で打てるべき手はほとんど打ってしまったし、職員に示すことができる改善目標も限られてきました。

gapchart.gif私はこの病院長に、『ケアレビュー』による客観性の高い患者満足度調査を提案しました。そして、病院独自での調査からケアレビューでの調査に切り替えた途端に、調査結果に劇的な変化があらわれたのです。

Q. 今回の入院全般に関する総合的な評価をお聞かせください(5段階評価)
A. 病院独自調査 非常に満足:86.7% やや満足:11.5% 普通:1.8% やや不満:0.0% 非常に不満:0.0%
A. ケアレビュー調査 非常に満足:47.5% やや満足:46.4% 普通:5.4% やや不満:0.7% 非常に不満:0.0%

ご覧の通り、病院が独自で調査した場合には実に9割近くの人が5段階評価で最高の評価を与えていたのですが、私たちがニュートラルな形で間に入っただけで、最高の評価をする意見は半減し、不満を感じている人も存在することが明らかになってきたのです。数字では表れないフリーコメントにも、患者さんの本音に近い意見や要望が多く集まるようになりました。

このように評価結果が下がったことについて、この病院長はがっかりするどころか、逆に大いに喜びました。「これがおそらく患者さんの本当のキモチなのだと思う。客観的に課題を把握することによって、また初心に帰って業務改善や職員教育に取組めることを嬉しく思うよ。」
なお、この病院の調査結果自体は他の病院に比べて非常に高いレベルにあることを、この病院の名誉のために付け加えておきます。

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医療における医師・医療者と患者さんとはとても微妙な関係にあります。圧倒的な情報格差が存在し、自分の健康や命さえも握られている存在の医師や病院に対して、一般の市民が本音を伝えるのは難しく、いくら病院が本音を聞かせて欲しいと望んでも、多くの人は気兼ねして本音を語ることができません。

最近の医療界は『患者満足度ブーム』とも言える状況で、患者さんの視点を重視した経営を行おうとする医療機関が増えているのは喜ばしいことだと思います。院内の掲示板やホームページで調査結果を公表している病院も増えてきています。

ただ、多くの調査結果をながめてみても、「ほとんどの患者さんは満足しており、提供している医療やサービスには問題ありません」というトーンの報告が多くて、積極的に課題を発見して改善に取組もうとする“気合や根性”はあまり感じられません。当然のことながら、患者さんの視点で病院選びの参考になるような客観性が感じられる情報でもありません。

「医療機関が自己満足するために調査している」ような印象を感じてしまうのは私だけでしょうか?