病院や医師に対して患者さんが抱いている理想像や、求めているニーズは一人ひとりで異なります。また、同じ人であっても、健康状態や経済状態、あるいは病気の種類やステージによっても期待レベルは変化します。たとえば、「軽い胃潰瘍」程度であればあまり治療を受けたがらない病院嫌いの人でも、もし「胃がん」が見つかった場合には最高の治療を受けたいと全国の名医を捜し求めたりします。
今回は、私の会社で実施している患者満足度調査のなかから、新しい分析手法をご紹介しましょう。
私たちは、個々の患者さんが医療や病院に求める価値観やニーズを把握するための設問を調査設計の際に組み入れ、クラスタリングという分析手法によって回答者をグループ化することを試みています。具体的には、①治療方針への主体的関与、②時間的余裕、③メンタルサポート、④医療機関との関係、⑤治療の費用、といったことに対する価値観を把握することによって、回答者を7つのグループに分類するモデルを構築しています。
7つの患者タイプ(入院編)
- 皆保険万歳タイプ・・・なるべく安い治療で、早く入院を済ませたいと思っている
- 情報・関わり重視タイプ・・・情報収集意欲が高く、積極的に病院に関わりたいと思っている
- 最新医療希望タイプ・・・高い治療費を払ってでも、最新技術・設備での早期治療や精神的ケアを求める
- 治療以外犠牲タイプ・・・治療方針も医師に任せ、身体的な治療が最優先だと思っている
- 自己主張タイプ・・・若年層や女性に多く、治療方針だけでなくさまざまな自己主張をしたい
- ゆっくり療養タイプ・・・精神的な落ち着きや快適さを求めている
- 中庸・意見なしタイプ・・・高齢者に多く、意思表示が困難な患者層
ここで表示しているタイプの名称は私たちが勝手に創作したものですが、患者さんが医療機関に求めている価値観やニーズがそもそもグループ毎に異なることを、なんとなくご理解いただけるでしょうか?あるいは、ご自身が入院する際にはどのような価値観を優先するだろうかと想像していただくと、イメージしやすいかもしれません。
実際に、それぞれの患者タイプ毎に分けて患者満足度の内容を分析すると、明らかに傾向値やフリーコメントも異なることがわかります。また、重回帰分析などによって、患者満足度に影響を及ぼす要因がグループ毎に異なることを統計的に説明することも可能です。ちなみに、男女別や年齢別などでも同様の分析を試みましたが、デモグラフィカルな属性の違いによって患者満足度に影響を及ぼすような特徴的な差異を発見することはできていません。
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一般産業界では、顧客ニーズに合わせて対応サービスに幅を持たせるようなサービスマネジメント手法が広がっています。たとえば、ある大手住宅メーカーでは、住宅展示場を訪れた顧客に実施するアンケートによって、顧客の来場目的や予算金額、購入予定時期などを把握し、タイプ別に案内説明方法やその後の営業フォローアップ体制まで細かく規定した『顧客タイプ別マニュアル』を作成しています。
医療機関でも、あらかじめ患者さんのタイプを認識することができれば、さまざまな対応が新たに可能となるでしょう。タイプ別に対応マニュアルを作成したり、担当職員や病室の部屋割りを変えたり、治療方針の決定スタイルを変えたり。。。患者ニーズのないところに無駄な投資を行うよりも、患者タイプを把握することによって患者満足度を上げるための効果的な方法がもっとたくさんあるはずです。
当社ではこのような研究をさらに進め、医療機関の特徴や優位性を発揮するための経営戦略やマーケティングサポートを行っていきたいと考えています。ご興味のある方は、どうぞお気軽にお問合せください。