医療機関においても、職員満足度の向上は経営に関わる重要課題です。しかし、厳しい経営環境の中で、あらゆる条件を万全に整えることは難しいでしょう。職員満足度と経営改善の関係や、医療従事者の満足度の特徴を知ることで、経営に過度の負担をかけずに満足度を上げていく工夫が可能になります。
職員満足と収益向上の「好循環」
まず、『サービス・プロフィット・チェーン』というチャートをご紹介します(図1)。これは、ハーバードビジネススクールのへスケット教授らによって考案され、顧客・従業員・サービスや商品がどのような関係を構築すれば、企業や組織の利益・成長につながるのかを示したモデルです。簡単な解説は以下のとおりです。
内部サービス・プロフィット・チェーン
- 採用・教育・評価・配置といった人事システムの適切な構築により、内部サービス品質を向上させる。
- 内部サービス品質の向上が従業員満足の増大をもたらし、従業員満足の増大が従業員ロイヤルティ(忠誠心)の向上をもたらす。
- ロイヤルティの高い従業員は、定着率が高まり、高いサービス生産性を発揮するようになる。これがサービス価値(医療の質)の向上をもたらす。
外部サービス・プロフィット・チェーン
- サービス価値の向上が、顧客満足を増大させ、顧客ロイヤルティの獲得につながる。
- ロイヤルティの高い顧客が、サービスを反復購買したり、他の顧客へ推奨という行為をしたりすることで、売上や利益の増加につながる。
- 売上や利益の増加が、内部サービス品質向上のための原資として還元される。
これらの流れを医療に置き換えてみると、次のような「好循環」が作られることがわかります。
- 職員満足職員満足度の向上により、医療の質が高まる
- 患者満足度が高まり、病医院の収益が向上する
- 収益の向上が職員に還元され、職員満足度が向上する
『サービス・プロフィット・チェーン』は、もともと一般の企業活動を想定したモデルですが、2つの理由から、医療機関にこそ重要な考え方だと思います。
- 【理由1】
医療は労働分配率(その組織で創り出される付加価値に占める人件費の割合)が極めて高く、人的資源の状況によって、顧客サービスの価値(医療の質)は他産業よりも大きく左右される。 - 【理由2】
医療は非営利性や公共性が強く、収益を配当などの形で外部流出することなく内部サービスの質の向上に充当できるため、従業員の共感を得やすい。
医療従事者の職員満足度の構造
では、職員満足度を高めるためには、どのようなことが必要なのでしょうか?
図2は、当社で実施した医療機関の職員満足度調査のデータを分析し、横軸に「各項目の満足度」を、縦軸に「各項目の重要度※」をプロットして、病院職員の意識構造を可視化したものです。
※ここでの重要度は、勤続意欲や組織ロイヤルティに与える“潜在的な影響の強さ”を1万人以上の回答内容から統計的に算出したもので、回答者に重要度の判定を求めたものではありません。
まず目につくのは、「仕事のやりがい」の重要度が突出して高いことです。仕事にやりがいを感じている職員は、勤続意欲やロイヤルティが高く保たれますが、いったんやりがいを失うと、たちまち離職の危機に陥ってしまうことを示しています。
経営者としては、各職員が仕事のやりがいを感じられる職場環境や、成長や自己実現の機会を提供できているかどうかに、十分な関心を払うべきだと考えられます。
「報酬」「福利厚生」は、満足度の水準は低いものの、重要度はそれほど高くありません。人間の金銭的欲求は尽きることがなく、どこの病院でも多くの職員が給与面での不満を感じていますが、給料を上げて一時的に満足度が高まっても、その効果が長続きすることはありません。「そりゃあ、お給料はもっと上げてほしいけれど、それよりも大事なことがあるでしょ」というのが多くの職員の本音でしょう。
したがって、満足度が低くて重要度が高い、図の左上に位置する項目こそ、最優先で改善に取り組むべき課題だと判断できます。「精神的な不安」「評価方法の適正さ」がこれに該当します。多くの職員は、「適正な評価」や「精神的な不安の軽減」を最優先で求めているということです。 職員アンケートの回答には、「評価方法への不満」「精神的な不安の原因」が非常に多く寄せられます。その声に耳を傾けて問題を探り、解決していくことが職員満足度向上につながり、医療の質向上、患者満足度向上につながっていくのです。