患者満足度調査を実施する際には、とても重要な2つの設問があります。
・再利用意向 ・・・ Q.あなたは、この病院をまた利用したいと思いますか?
・知人推奨意向 ・・・ Q.あなたは、ご家族やご友人にこの病院をすすめますか?
当社では、この2つの設問の回答を最重視して各病院の総合満足度指標を算出したり、各種のデータ分析を行っているのですが、じつは再利用意向と知人推奨意向との間には大きな違いがあります。
◆◇◆
以下に、当社がこれまでに調査を実施した病院のアンケートの中から、入院患者と外来患者それぞれ1,000名ずつの回答データを無作為に抽出し、上記2つの設問に対する回答割合をお示しします。
外来患者の回答割合 (n=1,000)
再利用意向 | 知人推奨意向 | |||
ぜひまた利用したい | 45.3% | 自信をもってすすめる | 27.4% | |
ある程度は利用したい | 49.5% | ある程度はすすめる | 48.1% | |
どちらとも言えない | 4.5% | どちらとも言えない | 21.8% | |
あまり利用したくない | 0.3% | あまりすすめられない | 2.3% | |
絶対に利用したくない | 0.4% | 絶対にすすめたくない | 0.4% |
入院患者の回答割合 (n=1,000)
再利用意向 | 知人推奨意向 | |||
ぜひまた利用したい | 47.2% | 自信をもってすすめる | 40.3% | |
ある程度は利用したい | 41.8% | ある程度はすすめる | 43.7% | |
どちらとも言えない | 9.5% | どちらとも言えない | 14.3% | |
あまり利用したくない | 1.0% | あまりすすめられない | 1.3% | |
絶対に利用したくない | 0.5% | 絶対にすすめたくない | 0.4% |
外来患者の2つの回答割合を比較すると、明らかなギャップがあることがおわかりいただけるでしょう。5段階評価の上位2ランク(概ね肯定的な人)の割合は、再利用意向が94.8%であるのに対して、知人推奨意向は75.5%しかありません。そのギャップはじつに19.3ポイントにもなります。これだけの差があることに最初は私たちも驚きましたが、次第にどこの病院でも同じような傾向を示すことがわかってきました。
この約2割の方たちの気持ちを推測すると、「自分は不満を感じているけれども、これまでのカルテもここにあるし、今さら病院を変えるのも不安なので、我慢してこれからも通院しよう。でも他の人にはあまりすすめられないな。。。」というようなニュアンスだと考えられます。マーケティング用語では、「ブランドスイッチ(別のブランドやサービスに乗り換えること)のリスクやコストが高い」状態だと言えます。
これに対して、入院患者の場合には、再利用意向の89.0%に対して知人推奨意向は84.0%で、差は5ポイントだけにとどまっています。外来よりも治療の成果がはっきりと理解できることや、退院後も継続的な経過観察が必要なケースも多いため、本人の評価とクチコミとが一致しやすいのだと考えられます。
ちなみに、再利用意向が外来のほうが高いのは、入院は症状が重いケースが多いのでより慎重に病院を選ぶのに対して、外来は比較的症状が軽いため我慢できる許容範囲が広いためだと思われます。
◆◇◆
例えば、レストランや美容室など一般のサービス業であれば、客が我慢して通い続けることはあまり考えられません。ブランドスイッチのリスクやコストが低いため、再利用意向と知人推奨意向はほぼイコールだと考えられます。
それに比べて、日本では医療へのフリーアクセスが確保されているとはいえ、患者にとって病院を変えるというのはとても勇気がいる決断です。私が病院に調査結果を報告する際には、上記のように「患者の2割は不満を抱きながら来院している可能性がある」ことを示して、患者の微妙な心理にも思いをめぐらせて欲しいとお話しするようにしています。
また、組織運営やバランススコアカードなどの目標としても、より辛口の指標である「知人推奨意向」を使用することをおすすめしています。
※ 院内の患者満足度調査結果を他病院と比較して水準を把握する際にも、上記の回答割合を参考にしていただければ幸いです。(調査方法や選択肢が違うため、あくまで参考値ですが。)