職員満足度に比べて、患者満足度の調査結果は、正直なところ病院間での格差があまりはっきりとは出現しません。程度の差はありますが、大多数の患者は「治療結果に満足」し、「医師やスタッフに感謝」しているのです。
患者満足度は、受けた医療の内容や対応したスタッフだけでなく、その人の疾患の程度や経済状態、そもそもの性格や価値観によって大きく左右される主観的なものです。また、医療自体が情報の非対称性が強いことや、社会保障制度についての理解が不十分な患者も多いため、評価者としての患者教育の必要性も感じています。個々の病院の経営努力やスタッフのガンバリがある程度は反映されているとは言え、提供されている『医療の質』を病院間で客観的に評価するために完全に信頼できるツールかどうかと問われると、残念ながら現在の患者満足度調査だけでは不十分だとお答えしています。
また、個々の病院の取組みだけでなく、それを超えた国あるいは地域の医療システムにも患者満足度は明らかに影響を受けています。たとえば、急性期病院の患者経験調査では、だいたいどこの病院でも「費用」と「退院」に関する不満が上位に出現します。医療費に関する適切な情報提供や、退院後の支援体制は、国や地域全体の課題として解決を図る必要があるもので、個別病院の現場にすべての責任を押し付けるわけにはいきません。
このように考えると、患者満足度調査は他院と比較する意味よりも、院内で継続的に実施して経過観察に用いるのが正解だと思います。半年毎あるいは1年毎に同じ調査方法で実施して推移を見守ると、人事や運営方法の変更など病院の施策と満足度の変化が見事に一致するケースも多く、経営がウォッチすべき指標であることは間違いありません。さらには、各部署でのPDCA活動やバランススコアカードの目標と連動させるなど、組織運営に効果的に活用している病院も増えてきたように思います。
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米国では、『医療の質』を可視化する取組みとして、さまざまな臨床データや患者満足度に基づくベンチマーク分析が日本よりもはるかに進んでいますが、これには病院よりも保険者の意向が強く働いているようです。そのために病院は必要以上に多額のコストをかけて調査や対策を実施しなければならず、それが医療費高騰の一因となっているというのは皮肉な事実です。
職員満足度も患者満足度も、『医療の質』を測定する上で重要な指標であることは間違いありませんが、限られた経営資源の中で個々の病院が実現できることには限界もあります。そのことをよく理解した上で、外部の声にただ振り回されるのではなく、取り組むべき真の課題を明確にし、経営上の優先順位をつけるために、病院経営者が自らの意思で主体的に取り組むというスタンスが重要だと思います。