シンガポールに学ぶ2つめのテーマは、社会保障制度についてです。
シンガポールでは基本的なヘルスケアはあくまで個人の責任とされ、自助努力が強く求められる社会的な価値観が浸透しています。そのため、老後の生活や医療費といった社会保障政策の中心は、中央積立基金(CPF)といわれる強制的な貯蓄制度で賄われているというユニークな特徴があります。
1984年に発足した医療貯蓄口座制度(MSA)では、メディセーブ口座に強制的に賃金の6~8.5%が積立てられ、入院医療費および一定の外来医療費(一般の軽医療分は対象外)に使途が限定されています。また、高額医療費を補填するための任意保険(メディシールド、メディシールドプラス)や民間医療保険の保険料に充当することも可能です。
一方の医療費に関しては、民間病院の医療費は自由に決められていますが、公的病院の医療費は政府により規制されています。ただし、日本のような一律の診療報酬点数が決められているわけではなく、患者は病室の定員や広さに応じた病棟クラスの中から病室を選択することができ、クラス別に異なる割合の政府補助金が付与されます。外来診療のドクターフィーも、医師のクラスによって患者が選択することができます。(右の写真は院内に掲示してある料金表です。)
例えば、シンガポール総合病院の入院費用(1日あたり室料)や外来診察料(ドクターフィー)は以下のとおりです。(シンガポールドル/カッコ内はS$1=約78円で換算)
◆病棟別室料(2007/12月現在)
病棟クラス | A1+ | A1 | B1 | B2+ | B2 | C |
特別室 | 個室 | 4床室 | 5床室 | 6床室 | 9床室 | |
1日の室料 | S$299.60 (23,370円) |
S$267.50 (20,870円) |
S$160.50 (12,520円) |
S$106 (8,270円) |
S$53 (4,130円) |
S$26 (2,030円) |
政府補助率 | 0% | 0% | 20% | 50% | 65% | 80% |
◆外来診察料(2007/12月現在)
医師クラス | シニアコンサルタント | コンサルタント | アソシエイトコンサルタント | |||
患者区分 | A1・B1 (自費) |
B2+・B2・C (補助) |
A1・B1 (自費) |
B2+・B2・C (補助) |
A1・B1 (自費) |
B2+・B2・C (補助) |
初診 | S$86.62 (6,760円) |
S$25 (1,950円) |
S$76.43 (5,960円) |
S$25 (1,950円) |
S$66.23 (5,170円) |
S$25 (1,950円) |
再診 | S$61.14 (4,770円) |
S$25 (1,950円) |
S$50.95 (3,970円) |
S$25 (1,950円) |
S$38.72 (3,020円) |
S$25 (1,950円) |
◆◇◆
シンガポールの国民医療費はGDPの3.8%(2001年)と、国際的に低いとされる日本に比べても極めて低水準に抑えられています。貯蓄型保険制度によって「医療はタダではない」という意識が患者に浸透するとともに、入院施設の快適さや医師のクラスに応じて異なる自己負担金額から患者に選択させるという医療システムにより、医療需要がうまくコントロールされていることは明らかだと考えられます。
日本でも、「使ったもの勝ち」の保険制度や、一律の保険点数制度が見直されるべき時期に来ているような気がします。