バンコクの病院を視察して

バムルンラード病院のロビー

以前から気になっていたバンコクの病院の視察に行ってきました。国際的にも有名なバムルンラード病院バンコク病院、バンコク病院系列のサミティヴェ-ト病院など、タクシン前首相が推進した「メディカルツーリズム政策」の流れにも乗って今や世界中から患者を集めるようになった先進的な民間病院を実際に訪問し、各病院の幹部ともディスカッションをさせていただくことができました。

いずれの病院も株式会社として経営されており、豊富な資金力を背景として素晴らしい設備やアメニティを有するとともに、米国の医療施設を評価認証する機関であるJCAHO(医療施設評価合同委員会:Joint Commission on Accreditation of Healthcare Organizations)の国際認定(JCIA)を取得したり、海外の保険会社との積極的なアライアンスを行うなど、グローバルなマーケティング戦略を推進しています。
また、医師別の評価システムやドクターフィーの設定、看護師やリハビリ職員のアウトソーシングの導入、積極的な広報や社会貢献活動など、経営や医療のマネジメントスタイルも相当に洗練され、日本の病院経営とは異なる自由闊達な経営環境下で医療の質やサービス水準を競い合っている様子を肌で感じることができました。私はこれまで米国の医療機関には何度も訪問しましたが、アジアの国の病院経営がここまで進んでいることにはかなりの驚きを禁じえませんでした。

このように、欧米先進国だけでなく、タイやインドなどの病院にも世界中から患者が訪れる時代になり、医療の世界でもグローバルな競争が現実味を帯びています。

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これまでの日本の医療システムでは「格差を設けず平等に」という社会保障の概念が優先され、正しいことを行っている医療者や医療の質を高めるための医療機関の努力が適正に評価されるような制度設計が遅れているのが現状です。結果として、先進諸国内では圧倒的に低い水準に医療費が抑制されていますが、国民もメディアもそれをあたりまえのことだと考えています。

その一方で、質が高く安全な医療を求める国民のニーズは増大し続けており、増え続ける医療訴訟や、さまざまな医療情報の氾濫によって医療者と社会との信頼関係は崩れ、「医療崩壊」が叫ばれるほど優秀な医療者の現場からの離反や流出が続いています。

バムルンラード病院の日本人専用受付

今回の視察目的には、最近日本のマスコミ等でも紹介されるようになってきたバンコクの先進的な病院の今後のマーケティング戦略を探る目的もあったのですが、意外なことに「日本人マーケットをそれほど重視していない」という彼らの本音もよくわかりました。その理由はずばり「日本国内の医療費があまりにも安いために、いかに人件費や物価の安いタイと言えども価格競争力を確保することができない」ことに加えて、「日本人にいかに質の高い医療を提供しても、日本人はそれに見合う対価を支払わない」という価値認識に原因があるようです。

このままでは、日本の医療が世界から取り残されてしまうような危機感を感じるのは私だけでしょうか?