シンガポールに学ぶ3つめのテーマは、医師の教育や資格制度についてです。
シンガポール国内では、シンガポール国立大学(NUS)が唯一の医師養成機関ですが、NUSの卒業生の取得資格であるM.BやB.Sは、イギリス
のGeneral Medical Councilで登録資格として、アメリカのECFMG(Educational Commission for
Foreign Graduates)でもアメリカの資格試験の条件として受け入れられていることからも、教育レベルは国際的に通用する水準にあることがわかります。
シンガポールの医師は、総合医・家庭医(General Practitioner)と専門医(Specialist)に大別されます。通常、総合医が日常的な疾病の治療や健康維持管理、予防などを行ない、総合医の治療範囲を超える専門的な知識や治療が必要なときには専門医を紹介するという欧米型のシステムになっています。
国内の医師養成機関の少なさを補うために、欧米の大学で資格を取得した医師を認めており、欧米で専門医の資格を取得して帰国した医師が多いことも特徴です。また、外国人医師も制限はあるものの、他国に比べると積極的に受け入れられているようです。(ちなみに日本人医師は、総合医として、クリニック内での日本人外来患者の診療に関してのみ診療が許可されています。)
シンガポールでは2年毎に医師免許を更新することが求められています。この資格更新のためのプログラムも非常にユニークで、2003年からはSingapore Medical Council(SMC)が運営する Continuing Medical Education(CME)という生涯教育プログラムによって資格更新のためのポイントシステムが運営されています。
(参考) CMEプログラムの概要
CMEプログラムでは、すべての医師は2年間で50point(Core point 10ポイント含む)以上を獲得することが求められます。学会発表、医学誌投稿などでのポイント獲得も可能ですが、一番簡単な方法が公立病院や民間病院などでランチタイムに開催されるレクチャー(カテゴリー1B)への参加です。製薬会社がスポンサーとなっているCMEレクチャーもホテルなどで毎週のように開催されています。このため、参加する医師同士が知り合い、お互いの知識や経験を共有して、質の高い医療連携にも役立っているようです。
学習内容によって細かくポイントが設定されており、オンライン上でイベントカレンダーの公開や参加登録が行われているほか、医師のポイント獲得進捗状況もリアルタイムで確認することができます。(右の画面は医師専用管理画面のイメージです。)
◆◇◆
日本の医師免許は海外ではほとんど通用しません。シンガポールは日本の医師免許で臨床行為を行うことができる数少ない国ではありますが、その対象は「日本人患者の外来」に限定されています。
医師の国外流出によって国内医療が崩壊してしまったイギリスの例もあるため逆にありがたいことかもしれませんが、日本の教育や資格制度の国際競争力という観点では考えさせられる話です。
また、日本の認定医や専門医の資格制度では論文などの形式面を重視する傾向にありますが、CMEプログラムでは、医師の医療レベルを底上げして患者の利益につなげるとの考えに基づき、日常的な臨床スキルの維持向上を促す仕組みが地域の中核病院を中心に構築されているところがとても興味深く思いました。
日本でも医師の免許更新が話題になることも増えてきましたが、地域の中核病院に開業医を集めて継続的な学習と交流を促す仕組みづくりを行うなど、資格制度をより質の高い地域医療体制の構築につなげるような工夫が必要ではないでしょうか?