シンガポールの医療システムに学ぶ(1)

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シンガポールの病院を視察してきました。

高度な医療技術の提供と財政面での効率性を両立させたシンガポールの医療制度は、世界でもっとも成功したヘルスケア・システムの1つであるといわれています。

このようにグローバルな評価を得ているのは、シンガポールが小国という利点をいかして柔軟かつ弾力的に経済政策や開発を進めるとともに、政府が強いリーダーシップを発揮して医療システムを整備してきたことが大きな理由です。米国のように市場原理に任せきった医療システムではなく、国家の責任と明確なビジョンに基づいてさまざまな施策を推進し、美しく統制されたシンガポールの医療システムは、わが国の今後の医療のあり方を考える上で参考とすべきことが多いように思いました。

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最初に、シンガポールの非常に効率的な医療提供体制についてご紹介します。

シンガポールでは、株式会社による民間病院経営も認められていますが、圧倒的に公立病院のほうが大規模な経営を行っています。概ねシンガポール全体の入院治療の80%とプライマリーケアの20%は公立病院が担っているイメージです。

ただし、公立病院と言っても1980年代後半から公立病院の独立行政法人化や公益法人化が進められ、企業会計原則に準じた非営利組織として運営されています。実際に面談した病院のマネジメントスタッフは、民間企業のように高い収益マインドを持っていました。

さらに特筆すべきことは、2001年に全ての公立病院が地域別に東西2つのクラスターに編成されたことです。シンガポール政府は医療や教育をこの2つのクラスターに徹底的に競争させることにより、クラスター内での経営資源や患者の融通など病院間の協力体制やネットワークが高まり、個別病院単位ではなく、地域を面でとらえた効率的な医療提供体制が実現されているのです。

(参考)クラスター別の主要病院

東側:Singapore Health (SingHealth) http://www.singhealth.com.sg/

Singapore General Hospital 1,518床
Changi General Hospital 757床
KK Women’s and Children’s Hospital 830床

西側:National Health Group (NHG) http://www.nhg.com.sg/

Tan Tock Seng Hospital 1,400床
National University Hospital 928床
Alexandra Hospital 400床
Institute of Mental Health / Woodbridge Hospital 2,369床

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日本では、地域医療計画は病床数規制など形式的な供給量のコントロールにとどまっており、診療報酬(医療費単価)の抑制によりじわじわと再編淘汰を促し、現場の当事者に責任を押し付けるような形で時間ばかりかけた医療提供体制の再編が進行しています。そのために、地域の医療資源配分までもが当事者任せとなっているため、効率的な医療システムとはかけ離れた医療提供体制が放置され、現場の疲弊が増大しているように見えてしまいます。

日本でも、そろそろシンガポールのように医療を『公共財』として認識し、政治や行政が権限と責任を明確にした上で、地域全体を面でとらえて短期集中的にリストラクチャリングを完遂する方が、移行期における混乱は回避できるのではないでしょうか?